感想記

ネタバレ注意。乾燥注意。

夢から醒めた夢 −冒険配達ノート−

赤川次郎がお話を担当し、北見隆が絵を描いた絵本。エドガー・アラン・ポーの「A Dream within a Dream」を読んだ際、「夢から醒めた夢」というタイトルに聞き覚えがあったので、検索して調べたところ、この本を発見。読んでみる事にした。

 

タイトル

タイトルが「夢から醒めた夢」なのだから、二つの夢(最初の夢とその夢から醒めた夢)が描かれているはずなのだが、それぞれがどの部分に相当するのか、よくわからなかった。

 

ピコタンが目を醒ましているようなシーンを掲示してみると、

  1. お化け屋敷の中で幽霊の少女と最初に出会って、ベンチで目を覚ました時。
  2. 公園で幽霊少女の代りになって、死んだ人間の世界で、ハッと我に返った時。
  3. 病院のベッドの上で目を覚ました時。

 

我に返るというのは目を覚ますのとは少し違うかもしれないので、上記2は省いてもよいのかもしれないが、上記のピコタンが目を醒ますシーンを基にタイトルを考えると、「夢から醒めた夢」は、上記1(乃至は1と2)の夢から醒めた、ピコタンが上記3まで見ていた夢という風に解釈できる。

 

しかし、これだとピコタンの冒険が単なる夢だったということになってしまって、少し悲しい。

 

それに、上記1でピコタンが目覚めた後、この話の語り手は、「もしピコタンが夢をみたのだったら。—お話はここでおしまい、ってことになる。」(角川文庫初版本のp.28)と言っているが、実際、お話は続いるわけなのだから、お化け屋敷での幽霊少女との出会いは夢ではなかったと解釈するべきだろうし、同様にそれ以降の出来事も夢ではなかったと解釈すべきだろう。

 

じゃあ、このタイトルなんなの?

 

なんとなく聞こえがいいから、話の内容を無視してつけたんじゃない?

 

と、疑ってしまいたくもなるが、まぁ、そこはできるだけ作者の都合のいいように解釈してあげましょう、ということで、

 

この話のタイトルはピコタンの立場からのものではなく、読者の立場からのものなのだ、と言えるんじゃないだろうか。

 

語り手は28ページでこう言っている。

 

「お化けというのは、それがいると信じてる人にはいるし、信じていない人にはいない。」

 

殆どの人はお化けを信じていない。この本を読んだ人の殆どもそうだろう。そんなわけで、ピコタンにとっては、そうではないけれど、お化けを信じていない一般的な読者にとっては、この話は夢から醒めた夢のお話ということになり、「夢から醒めた夢」というのは、このお話のタイトルとして、そこそこ相応しいものとして、とらえる事ができる。

 

めでたしめでたし。

 

 

ピコタン夜の街を徘徊

ピコタンはたまに、夜中に冒険配達便からの手紙を受け取りに行くそうだが、このことについて、「どうやら本人も後になると憶えていないらしいー。」(p.2)という記述があった。

 

これは、どういうことなんだろう?

 

ピコタンは色んな冒険を無意識のうちにしているということなんだろうか?

 

とすると、このお話はやっぱり、殆ど全部がピコタンの夢の中の出来事で、その夢をどういうわけか把握できる語り手が、我々読者に伝えているということなんだろうか?

 

そう考えるには、どうも抵抗を感じる。

 

本文に立ち返ってみると、ピコタンは、ピコタンのお母さんとお姉さんについて、幽霊少女との出会いの「話を信じてくれるには、ちょっと大人過ぎる、って分かっていた」と書かれていた。(p.28)

 

というわけで、きっとピコタンは、他の人は冒険配達便の話を信じてくれないだろうから、夜中の外出について、憶えていないというふうに嘘をついているのだろう。

 

 

その他

幽霊少女は、誰の身代わりもなしで、お化け屋敷でピコタンに会いに行けたのだから、自分の母親にも、同じように会いに行くことができたはずだ。しかし、そうしなかった。おそらく、それはできなかったからだろう。ということは、幽霊少女がこの世のピコタンに会いに来たのではなく、ピコタンの方があの世に行ったということになるんだろう。切符を売っていた、おばあさんも、もう死んでしまった人なんだろうから。

 

北見隆の絵は、中学の頃持っていた英語の辞書のカバーを思い出させた。あの辞書も彼が担当していたのだろうか? 気になって少し調べたが、確認するには至らなかった。

 

北見隆のフワフワのおじさんの絵はルネ・マグリットの絵や植田正治の写真を思い出させる。別にパクりと言いたいわけではないけど。

 

 

総評

中学の頃、友人が赤川次郎の小説をよく読んでいたので、自分も(多分2冊くらい)読んでみたが、全くおもしろいと思わなかった。正直、幼稚な印象を受けたのを覚えている。そんな経験から、この本に対する期待も薄かったのだが、今回はいい意味で裏切られた。 おもしろかった。この本の方が私が昔読んだ赤川次郎の大人向けの小説よりも、よっぽど幼稚なのかもしれないのに。北見隆の絵も、私にはいいと思えたし。

 

ABCDでの評価はA。